作品一覧
I wish you were here, Summer.



今日のおすすめ作品


06- / 11- / 16- / 21- / 26- / 31- / 36-
  41- / 46- / 51- / 56- / 61- / 66- / 71-
  76- / 81- / 86- / 91- / 96-


01-05

求めたとおりの潮風が吹く──ごうごうと。水際より種を飛ばし、やがて祈りを芽吹かせる風が。

水際に種
作者:こうあま│小説
お題:沈黙、暁、かかげる
「話を聞かせてよ、観光客さん」半ば水没し廃墟となった町を訪れたアルバは、植物の種を採取しているマルテという女に出会う。潮が満ち、引くまでの間、ふたりは言葉を交わす。旅の出会いと、ちいさな再生の物語。




少女は一人波打ち際で目を閉じた。

波打ち際によって
作者:椎名由騎│詩
お題:カモメ、つめたい
「私」は海を眺めながらボーっとして過ごしていた。ただ海の近くに行きたいと思った。「少女」は立ち上がり、砂浜へ続く扉をくぐる。寄せては返す波のように、心地よい余白と清廉なつめたさを湛えた詩作品。




空と海は違う色をしていたけれど、どちらも群青と呼んでよかった。

群青の夏、命尽きても
作者:空き缶│小説
お題:最果て、うたかた、切ない
少年は気づけば空と海だけの世界に立っていた。そこで五年ぶりに出会った元同級生の少女は、ここが死後の世界<サイハテ>で、自分は少年の最後の願いを叶えるために呼ばれたのだと言う。あまりにも青い、人生最後の、理想的な夏のお話。






作者:一青悠│イラスト
お題:空、波
透きとおる水の青、波紋に乱れることなく穏やかに映り込む空。美しさと居心地のよさを併存させるイラスト作品。その涼やかさをぜひご堪能ください。




猫しか通らなさそうな塀と塀の隙間へ誘われる。

悪魔の魂
作者:館長仮名│小説
お題:打ち水、別荘、流す
ごめんなさい。少女は僕の財布を差し出して頭を下げた。彼女は僕のバッグから財布を盗って、返しにきたのだという。怒らない僕に彼女は寄り道を提案するが、その先は――夏の暑さを表すような、現実と入り混じる幻想譚。





06-10

ぐるぐる目を回し硬直する私に、山田君は首を傾げた。「手、繋がんの?」

あやかし筋と夏の講
作者:雲晴夏木│小説
お題:日陰、甚平、荒っぽい
あやかしと人の境界が曖昧になった時代。「雪女筋」の私は勇気を出して、山田君を神社の無礼講に誘う。山田君は、今時珍しい純血の〝人間〟だった。中学生の青春とあやかし世界の妖幻が、見事に交わり、混ざりあう、夏のある日のお話。




静がいた。僕は夏が嫌いになった。

マツヨイグサ
作者: 漣靖│小説
お題:水
静は水のようなひとだった。滔々と流れ、誰かに触れられるとその熱で火傷をし、すべてを諦めて飲んでしまう。そんな静は、よろめくみたいに夏に消えた──静謐と愛しさを湛えた、僕の回想記。




根づいていたものが去っていくこの土地は、その空隙を埋めるように、夏草を茂らせていく。

草茂る
作者: 南風野さきは│小説
お題:砂糖、雨上がり、流す
縁側で、ラムネの瓶を片手に空を仰ぐ。「あまいみずを置いておけ。気が向けば、誘い出されてやる」──砂糖水で昆虫を採ろうと森へ通っていた日々のことを、僕は思い出す。哀惜を孕んだ夏の空気を、みずみずしく捉えたお話。





追憶。
作者: aoi.│アクセサリー + 文章
お題:燦々、真っ白い
「花束を買った。光が燦々と降る。」静かに凛とたたずむ指輪の写真に、ささめくような文章を添えて。この透明な感情を、大切にできる時間を持ちたい。




夏はあまりに寒すぎる星で死んだ。もうどこにもない。

夏の死
作者:不可村天晴│小説
お題:かなわない
かつて夏はほんとうにあった。誰も知らないがあったという。ましろい雪に覆われたこの星では、夏、そして夏を知っている人間が失われて久しい。僕も知っている人間の存在など聞いたことがない、僕の姉以外には、誰一人として。





11-15

だから、ここは還る場所。

還る夏
作者:うらひと│小説
お題:浴衣、帽子
海風の吹く駅舎に降り立つ。君とした「ずっと一緒にいよう」という約束は叶えられなくなってしまった。それでも、今年も君が待っていると思って、ここに来る。一陣の風を全身に受けるような、清涼の広がる一幕。




「もう、私は何も書かないよ」

筆を折る
作者:そうま│小説
お題:日記、夜光虫、泡
夏めいた空に、夜光虫で赤い海。お気に入りのワンピースを風に揺らして、「私」はこれまでの創作ノートを燃やす。穏やかな景色に赤の吹き荒ぶ、彼女の心の断片。




キミがいなかったら、今頃いつもと同じように、エアコンの効いた部屋で読書に勤しんでいたことだろう。

夏のハジメテ。
作者:かんざわるい│小説
お題:金魚、星
「じゃあ、この夏、ハジメテ、しちゃいましょうよ」夏の暑さが苦手でお祭りも億劫。だというのに、『キミ』に、半ば無理やり夏祭りへ連れ出され……。『キミ』と『あなた』を互いに想う、きらめく光に満ちた愛のお話。




ああ、そうか、係長もぼくも、ひとしく夏のなかにいたのだ、と思ってしまい、感慨深くなってしまった。なぜ。

だれかの夏空
作者:ひざのうらはやお│小説
お題:料理
係長がイヤホンで甲子園の中継を聞き始めた。小気味よい金属音が漏れ聞こえる。冷房のきいた仕事場で伝票を確認していると、そうめんの購入履歴が目に留まった。そうめんがゆであがる。野球の試合は進む。遠くの夏空へ、僕は連れ出される。




それは小さなペットボトル。僕らがやり取りしたあのボトルメールだ。

夏。僕は女子高生とペットボトルで繋がった。
作者:Mu│小説
お題:手紙、砂
中二の夏。やってられない思いを海で吹き飛ばす日々を送る貴志は、ある日、紙の入ったペットボトルを見つける。それは女子高生が悩みを吐き出したものだった。偶然と思しき手紙は、翌日も、その翌日も届き――海を通して交わされる、不思議な往復書簡。





16-20

私はまだ半分ほど残っていたビールを一気に飲み干し、ジョッキを空にした。

甘いビールと苦い夏
作者:糸乃小切│小説
お題:砂糖、ビール
叔父の営む海の家でアルバイトをする私は、ある日、とても美味しそうにビールを飲む男性客に目を奪われる。「ビールって、そんなに美味しいですか?」気になって、つい尋ねると。苦味とさわやかさが喉を滑り落ちる、海辺のお話。




「本日も良好。詳しい内容はいつも通り送るよ」

ミドーの海
作者:神儺│小説
お題:林檎飴、ヨット、浸かる
海猫の鳴き声に起こされて、今日もミドーは仕事を始める。灯台からの観察記をつける仕事だ。空模様、風、海、気温――さまざまを記録して、鉱石ラジオの向こうに報告する。「以上、定時連絡」




二度と手に入らない結晶は、写真の上でくすんで、けれどきらめいている。

行ってしまった夏の話
作者:せらひかり│小説
お題:カメラ、結晶、恋しい
「夏はさあ、フィルムにしか写らないんだよ」おじさんのくれた、手に載せた小鳥のようなカメラ。おじさんが現像してくれる写真は、何か、魔法の色のようなものを宿していた。胸の奥底で、回顧がやさしくひかる小話。




口の中で、金平糖が一粒かちりと砕けた。

明日もきみに会いに行く
作者:みたか│小説
お題:Tシャツ、金平糖、清い
あの人だ、と思った。帰り道に通りがかった公園で、いつも美術学校で見る人の背中を見つけた。話したこともないのに真昼の暑さに心配になって、ドリンクを手に近づいていく。夏の暑さを和らげる、「僕」と「彼」のおだやかな交歓について。




ぼく自身が、彼女と花火を見たいと、願わくば花火とともに咲く彼女の笑顔を、見たいだけなのに。

あの夏で待っていて
作者:早藤尚│小説
お題:麦茶、団扇、情けない
花火大会が明日にせまって、ぼくはまだ彼女との約束をできないでいた。彼女は今日も受験生のぼくに付き合ってくれている。誘われないならこちらから誘えばいい。頭では理解しているが……からん、麦茶のコップが鳴る間を垣間見る恋のお話。





21-25

「……駄目だよ。君は、ゆくひとなんだから」

祈還
作者:鳥鳴コヱス│小説
お題:旅人、日焼け、愛しい
小さな海辺の、何もない町。ここにやってきた理由を俺は知らない。気が付いたら夕暮れの海をぼんやり眺めていたのだ。何も思い出せない俺に声をかけてきて、住むところまで提供してくれたのが由愛だった。




瞳の奥に燃えさかるのは、彼女の『星』だった。

トワの夏
作者:仲野識│小説
お題:問わず語り、星、うたう
文芸サークルの展示会に出した一冊の小説。僕はこれを機に作家への道を諦めようとしていた。そこで、彼女と出会った。彼女の黒くて大きな目はまっすぐで、すこし赤らんだ頬が真っ白な肌に映えてきれいだった。





初恋レモネード
作者:小倉さつき│イラスト
お題:レモネード
すきとおるレモンに、しゅわしゅわと浮き立つ感情は。コピックで爽やかに彩られたイラスト作品。心ときめくかわいらしさに癒されてください。




「君が本当に書きたいものは、なんですか?」

彩りの湖
作者:ダーハナ│小説
お題:湖、残り香、心細い
喧騒のない森林公園。思い出の場所を訪れた私は、公園の奥の湖で先客に出会う。小学生くらいの男の子だ。彼の描いていた絵は素晴らしいものだったのに、彼は哀しそうな目を見せる。私はつい――




私が彼女を弔う儀式だ。どうしていなくなってしまったのかを、ひとつずつ思い出していく。

弔いのりんご飴
作者:湖上比恋乃│小説
お題:浴衣、葬列
夏祭りで風車とりんご飴を買って、夜の砂浜にやってきた。そうしてそこで、夏を弔う。海に還ってしまったあの子を、忘れてしまわないために思い出す。潮風が風車を回す、あの子を懐う夜の話。





26-30


あの夏、木陰で会う君は
作者:せらひかり│イラスト
お題:しがらみ、アベリア、木漏れ日

色鉛筆のやさしい筆致に誘われる、木陰のベンチでのひととき。その感情に思いを馳せてください。



「できるでしょ、私のショパンなら?」

ふたりでショパン
作者:s8│小説
お題:日焼け、ピアノ、くすぐったい
あたしのためだけに、一流のピアニスト・安姫が奏でてくれるショパン。極上の音を味わいながら、あたしは小さく息を漏らす。――あぁ。どうして、こんな音を憎いと思ってたんだろう。ピアニストと元ピアニストの、勝負と嫉妬、友情と恋にまつわる物語。




「日照時間の長い夏最高、そんな最高な日に大好きなカレーを食べればもっと最高」

Which curry would you like?
作者:ECO│小説
お題:夏至、悩ましい
大学4年、サークルを引退した僕と菜月さんは、サークル恒例行事「夏至カレー」を2人で開催しようとしていた。大量のレトルトカレーを持ち込んで、2人だけのパーティーが始まる。カレーを食べたくなること必至な、夏のひとコマ。




「遥か未来の誰かは、今の人類がなぜ恐竜や深海生物や昆虫を、夏と関係づけていたのか疑問に思うかもしれない」

夏は20,000メートルの庭
作者:佐々木海月│小説
お題:博物館、緑
海に行きたい。ヨサリからのメールにはそれだけ書かれていた。海と言われたら、一般的には海を思い浮かべる。当然。海なのだから。けれども、ヨサリの場合は、それは『深海の生き物展』のことだった。




私達は妙に気が合う所があった。そうあの時も──

彼女と私の再会
作者:豊羽縁│小説
お題:帰省
私は無人駅に降り立ち、実家への道を歩いていた。途中、私の名前を若い女性の声が呼ぶ。「おかえり」途端、頭の中で記憶が蘇る……列車に揺られるように、真紀と過ごした夏を辿り、現在に至るまで。





31-35

記憶が、思い出が。屋敷の中を駆け巡っているような気がした。

走馬灯
作者:守宮泉│小説
お題:博物館、あたたかい
相模原博物館は、この地域では名の知られた実業家の、個人的収集物を展示した小さな博物館である。建物は築百年を超え、外観は明治のまま。だが、それも今日で終わりだ。取り壊しを決めた博物館で、館長の織江は不思議な影を見る。




あの夏を幻視しますと染め抜かれたのぼりを見かけたのは、階段が連なったような町で夜店を見に行ったときのこと。

ぬましずむ
作者:ツカノアラシ│小説
お題:夜店
宿泊先で、盆の間は近くに夜店が並ぶという話を聞く。行ってみれば『あの夏を幻視します』と書かれた店の奥、美少年がニコニコと笑っていた――夏夜に絡め取られる幻想話。




架空の場所だと思っていたあの風景が、現実に、しかも自宅から日帰りで往復できるような近場に存在していたなんて。

空より青い既視感
作者:梔子花│小説
お題:トマト、空、爽やか
忘れられない風景がある。夢にまで出てくるあの幻想的な風景を、いつどこで見たのか僕は思い出せない。ある日、テレビでその場所が実在することを知った僕は、妻と娘と行ってみることにする。




私はこの子に紗夜と名付けた。

小夜の日記
作者:九条ねぎ│小説
お題:夏座敷、日記
十六の誕生日に祖母が亡くなった。自殺だった。遺品は、アタシだけに読ませろという祖母の日記。アタシは夏座敷でそれを読み始める――甘い匂いが掠める怪奇譚。




噴水広場の水が凪いだとき。せかいはどこかに繋がるらしい。

あの日の色に水は凪ぐ
作者:ワタリマコト│小説
お題:日没、噴水、鏡
幼い頃から来ていた公園の中心には噴水がある。葉っぱや花びらを噴水に浮かべ、流れるさまをじーっと見ていたある日。水の中に沈んでいた花が、ぱっと弾けた。脳裏をあざやかに飾る、心やすらぐ掌編。





36-40

遠い遠い未来の昔/うたかた屋さんという泡売るお店が/海のなかにありました

夏の色、0の記憶 ‐XXXX年‐
作者:千梨│詩
お題:泡、傘
詩作品。寝物語のようにやさしくひらかれる、透明で澄んだ世界。泡のなかに映る思い出たちに、そっと手を差し伸べて。




「きっと卒業式に部活から花束をもらえないだろうから、卒業祝いの代わり」

練習帰りのソフトクリームがいつも楽しみだった
作者:月並海│小説
お題:シャツ、ソフトクリーム、花束
青天の霹靂だった。親友が部活を辞めた。演奏会で今年も一緒にソロを吹こうと約束をした、次の日のことだ。「どうして、辞めたの」声をかければ、楽器を背負っていない親友が振り返る。





花火を映すりんご飴
作者:葉月らびこ│イラスト
お題:林檎飴
艶めいた飴に特殊な感光剤を用いて、花火を写しとれるように仕上げました。りんご飴の甘さとともに、夏の煌めきを存分に召し上がれ。




けれど、《天使》であれる時間は恐ろしく短い。

天使のいる構図
作者:深山瀬怜│小説
お題:午睡、薬指、少年
この街には確かに天使がいる。正確には、《天使》と呼ばれる、美しい声を持つ少年たちが。彼らは白き塔で育てられて毎日祈りの歌を捧げる。《天使》でいられなくなったら──声変わりをしたらどうなるのか、誰も知らない。




プールの水が青く見えるような。ウミネコをカモメだと勘違いしていたような。

カモメのお姉さんと、夏の約束。
作者:しまこ│小説
お題:プール、カモメ、とじる
「母親に彼氏ができて気まずいんだけど、どうしたらいい?」悩める男子高校生は、プールで出会った年上の女性に思わず悩みを吐露してしまう。海辺の街の『カモメのお姉さん』との、みずみずしいひと夏の物語。





41-45

「あーあ。私、また弱くなっちゃうなぁ」

蚊の飛ぶ季節に
作者:黒歌詞│小説
お題:幽霊、網戸、ひらく
八月十三日、蒸し暑い夏の夜。網戸を閉めていない開け放しの窓から、彼女が飛び込んで来た。私の大親友で、二年前に、亡くなったはずの。軽やかにこころを穿つ、ふたりの遣り取りと約束。




ぼくは記憶にない夏を視せてくるこれを、マボロシと呼んでいる。

アオの香り
作者:来夏│小説
お題:香水、青
小瓶の頂を押すと、シュッと軽快な音がする。記憶の奥深くに眠っていた香りがして、僕は記憶にない夏を視る──吹きつけられる不思議な夏に、あなたも身をくぐらせて。




彼だから、好き。それだけ。

彼のピアノが奏でる夏の
作者:伊古野わらび│小説
お題:ピアノ、日傘、重い
彼がピアノを弾いている。夏の海の、煌びやかな潮の匂いがする。何年か前からわたしの世界は無音だ。だけどある時から、彼のピアノを「匂い」として感じられるようになっていた。なってしまっていた。奏でるは彼への想いを、しずかに雄弁に。




〈dictionary〉死して生き返る物語、私の〝夏〟の記録だ。私が記憶するリビングデッド・メディア。〈dictionary/〉

summer in a sense
作者:天霧朱雀│小説
お題:球、夏至
地軸が傾いた世界に、季節という概念は崩れ去った。地球はすべからく死んでいる。広い意味でいえば私達は生き物だろうか。機械人形と人工生命体が思考する、終末世界の夏について。





あの夏に彼女がいる
作者:彼住遠子│イラスト
お題:ヒマワリ、雲の峰、夕暮れ
暮れなずむ空に染められて、夏のなかに彼女が佇んでいる。いつか見たあの後ろ姿は彼女だったかもしれない。目映さに目を細めながら、そう思うのだ。





46-50

雨は水面に、〈水面下〉を蓄え続ける。現実と〈水面下〉の比率が、だんだん変わっていく。

The Summer without,River imp.
作者:樹真一│小説
お題:制服、芝、軽い
「早瀬って、カッパ?」委員長がオレを呼び止めた。そのままなぜか、強い雨のなか、ひとつの傘で帰ることになる。3年前の豪雨でも川は今みたいに荒れていた。どうどうと鳴る濁流と降りしきる雨が、カッパのいないこの夏と、あの夏を繋げていく。




ただ、あなたと等しく在りたかった、と。

最果てを探す
作者:楠木千佳│小説
お題:最果て、等しい
男は鬼たちに追われていた。鬼族のたった一人の姫君を、殺した者として。鬼を迎え撃った男は、表情を変えないまま、ひとつの名を零す。夏夜にひらめく恋の話。




「あなたはきっと、いつも傍に居る。わたしの心が、あなたの傍にあるように」

幻視。かつて、確かにそこに在ったもの。
作者:澄乎│小説、詩
お題:永遠、午睡、宝石
早く冬が来ないかな。そう口にするきみの額に手を置いた。口づけをしても、きみはきっと気づかない──「蜃気楼」ほか、三篇を収録。そこに静かにいる、そこに確かにいた、きみを思う短編集。




ばあちゃんちの玄関は広い土間と板の間があって、いつも涼しい風が吹いている。

あんたはね、あたしたちの孫よ
作者:春木のん│小説
お題:夕涼み、読書、危うい
うちからばあちゃんちまでは片道三時間かかる。近くにあるのは民家と道路と木と畑。涼しい風の入る家に、ばあちゃんはじいちゃんが亡くなってからも一人で住み続けている。祖母の家での、心に染み入る一日を描く。




この世界の全てが、君が作った五線譜の上の物語であったらどれだけ素敵だろうか。

潮がなければ汐もない。
作者:ほしのまち│小説
お題:潮、アイスクリーム、つまずく
君が波打ち際で白い足をさらしている。キラキラした水面より眩しい君を写真に収める。温度のある輝きは少しずつ温度を失っていき、いずれ思い出になる。……それ、嫌だな。引いては満ちる潮、朝と夕、たしかに一対であるはずのものに思いを馳せて。





51-55

だからもう 夏には何も考えない というのは/あるいは正しいのかもしれない

夏について
作者:一人文芸倶楽部Tower117│詩 ほか
お題:赤、打ち水、宵闇
それぞれ異なる名義で編まれた、詩、五行歌、短歌、俳句のオムニバス。さまざまな角度から切り取られた夏に、存分に浸ってください。




寄せて返す。波同士がぶつかり合って、砕ける。すると青みが増して、ぼうっと光る。

君が塗りかえて
作者:春咲雨│小説
お題:夜光虫、陽炎
もう二十年の付き合いになる由梨と、茜はルームシェアをしている。「それよりさぁ、見てよこれ」「何? 夜光虫を見に行こう……?」フットワーク軽く、二人は海岸へ行ってみることにした。昔から変わらず隣にいてくれる彼女と作る、夏の思い出。




それから暫くの間、彼女はかつて絶大な権力を振るっていた高官 洪国栄との出会い等々、様々なことを話した。

歌姫の回想
作者:鶏林書笈│小説
お題:夏座敷、遊覧船、生温い
朝鮮王朝時代後期、見事な歌声をもつ桂繊という女性がいた。突然に訪ねてきた彼女は、齢六十を超えながら今だ若々しく話に興じる。彼女の存在を振り返る、とある一幕。




一瞬見えた水の中は、いつも目にしている青色ではなく…この世界の空の色のような、ラムネのような青色だと思った。

ラムネ色のプールサイド
作者:きき│小説
お題:沈黙、ラムネ、鞄
先輩はいつも僕の先を泳いでいる。幼馴染みである先輩は、今も変わらず僕を気にかけ、隣に居てくれる。それでも、いつか手の届かないところまで行ってしまうのではないか。漠然とそんなことばかり考えてしまうのだ。




自覚したその瞬間、私の胸の中でビー玉の落ちる音がしたのを覚えている。

ラムネ
作者:hamapito│小説
お題:ラムネ
塾から家への帰り道、気づくと夏祭り会場の入口にいた。思い出すのは初めて行った夏祭り、兄に買ってもらったラムネのこと。ラムネを開けた瞬間の、シュワシュワと溢れる泡を大切にするお話。





56-60

まずバニラ。それも、できればスーパーカップ。

溶けない記憶とバニラ・アイスクリーム
作者:黒岡衛星│小説
お題:アイスクリーム
小学三年生のころからよく話すようになった夏音は、アイスが好きな子だった。言葉少なに、ぼそぼそとスーパーカップのバニラ味を褒める姿を覚えている。つまらない学校に通えていたのは夏音が居たからだと思う。読者の心にそっと寄り添う、溶けない記憶の話。




青い青い空に、薄くたなびく白い雲──トラックの白線のような。

空を走るあなた
作者:まつやちかこ│小説
お題:疾走、空、緑
まるで、空を走るようだと思った。仕方なく入った学校、誰とも喋らない日々を送るなかで、私はたったひとり走る男子に目を奪われる。そこから始まる、高校生男女の淡い恋物語。




「朝凪。もうすぐ、海風が吹く」

うみかぜ
作者:石燕鴎│小説
お題:朝凪
釣りに行くつもりだった青年は、小さな女の子の面倒を見ることになる。集落の老人によれば女の子の親が見つからないのだという。「君はどこのうちの子だい」青年が尋ねると……。吹きつける潮風に全身を包まれるような一編。




誰も拾えない声は、自分自身だけがもう一度浴びるしかない。

『葬列は見られない』
作者:のうみそ│小説
お題:葬列、メール
ふとメールを見ると友人からの連絡があった。随分前に届いた、本文がない、件名だけのメールだ。「え、死ぬの?」声に出して、それから思い出に度々登場してくる彼女のことを、思い返す。





「おかえりなさい。」
作者:おへそ│イラスト
お題:日没、可愛らしさ
視線の先、ハロを戴き、瞳をきらめかせる彼女がいる。先に手を伸ばしたのはどちらだったろうか。口をひらく。





61-65

──夏の夕焼けは駄目だ。忘れていたはずの稚拙な感情を、否応なしに引きずり出されるから。

朱夏のエンドロール
作者:冬野瞠│小説
お題:レモン、日没、永遠
空を赤々と灼く太陽を眺めつつ、久しぶりに会う地元の同期とバーベキューをしている。が、大きな帽子をかぶり白いワンピースを着た黒髪のこの女。目の前の彼女を、俺は知らない。




女に言わせれば、「夏の思い出だよね」ということらしい。

夏男
作者:八重土竜│小説
お題:陽炎、とじる
暑くて溶けてしまいそうな、八月某日。コンビニへアイスを買いに行った帰り道、野球帽を被った初老の男性とすれ違う。それを妙に気にする女へ「どうしたの?」と問えば、女はようやく口を開いた。懐かしそうに笑いながら。




姉は私のことをいつまでも幼いと思っていて、アイスクリームを与えれば機嫌がよくなると勘違いしていた節がある。

アイスクリームくらいの愛なら
作者:冬木ゆふ│小説
お題:アイスクリーム
姪の面倒を見るよう頼まれて、私は姪を祭りへ連れて行くことになる。二人で祭りを回りながら、私は姉とのことを思い出す。祭りの夜のこと、部活の大会のときのこと、クーラーがきいた部屋のことを。しずかにしずかにリフレインする、アイスクリームと愛の話。




「ねえ、君幽霊ってやつ?はじめて見た」

炎天下の幽霊
作者:アオ│小説
お題:幽霊、幽玄、眩しい
飽きるほど見て、何度も遊んだゲームの中の世界。五感全部で楽しむバーチャルゲームにログインした俺は、その世界にNPCも誰もいないことに気づく。さらにはログアウトもできなくなっていて──終了した世界のボーイミーツガール。




あなたの游ぐ海流はあまりに大きく目に見えない。

しじまにて
作者:山城よる│小説
お題:追憶、しじま、緑
久方ぶりの日本の夏はひどくじっとりとしていた。普段世界のあちこちの深海を調査している私は、学生時代以来に訪れた小さな町を歩く。途中、見つけた花屋で花を買った。海の広さに、深さに思いを馳せる、そっと頬に触れるような物語。





66-70

何かがおかしい。誰かいない。

青春アップデート
作者:秋桜みりや│小説
お題:短夜、別荘、危うい
部活のメンバーで訪れた、ひとりの部員の持つ別荘。古びた洋館は期待していた状態ではなく、蜘蛛の巣や埃が所々に。盛り上がるのは持ち主と後輩のカップルばかり。私たちは肝試しで二人をおどかすことにするが……事件は起こる。




「どうぞ、月の光をたっぷり浴びさせてください」

アクアリウム・アンティーク
作者:毛野智人│小説
お題:水草、宵、少女
太陽が殺意を帯びているような、酷暑の坂道。限界を迎えた「私」は男から水を貰う。招かれた骨董屋でお礼に商品を購おうとすると、男は、品に込められた思い出へ共鳴できる人に貰ってもらいたいのだと言う。




だからね、あなたがたが事件と呼ぶそれも、元をただせばアイスキャンデーのせいであるともいえましょう。

白昼夢のアイスキャンデー
作者:深夜│小説
お題:黄昏、つめたい
アイスキャンデーというものをご存知でしょうか。そうです、そうです、果汁や何かを冷やして固めたあれです。私にはよくわかりませんが、あれはきっと冷たい甘美な味がするのでしょうね――氷菓子へ惹かれる独白に始まる、真昼の夢のような幻想潭。




彼女と最後に会った日は、白が烟る夏の曇天だった。

夏の涯
作者:新熾イブ│小説
お題:アイスコーヒー、風鈴
「はい、かんぱーい」アパートの自室で、乙葉が僕の誕生日を祝ってくれる。シャンパンとともに僕の好物であるえびフライを味わう。軽口を言い合いながら、屈託のない笑顔に、好きだと思った。祈りが眼裏に焼きつく、夏の記憶の話。




投げ出そうとしたものをもう一度拾うのだから、きっと以前と違うなにかが宿るはず。

青写真を描く
作者:唯代終│小説
お題:夕焼け、写真
写真はいい。指先ひとつで今を切り取れて、美しい光景を手に収められる。夏休みの校庭で夕日を撮るサクヤに、「絵じゃだめなのかな、それ」ミサキは問いかける。二人とも、作品の成果と進捗について、先生に呼び出されていた。





71-75

「日曜日十七時から二十二時、夕食付。静かに働ける方。会いたい人はいますか」


作者:紫伊│小説
お題:笛、幽霊、のぼる
私が星見草郵便局でアルバイトを始めたのは夏めいてきた日のことです。働き手は局長さん、みざるさん、いわざるさん、きかざるさん、私。そしてここは死者からの言葉を配達する郵便局なのでした。




けれど今でもたまに考える。首長翼竜は何故、スナヅツの底へ向かったのか。

スナヅツの底
作者:榎坂祥│小説
お題:月光、新聞、日陰
僕は砂の上に倒れていた。空を飛んでいる最中に落ちたのだ。誰かが助けに来ますように。僕の祈りに、やがて現れた人が手を差し伸べる。助けてくれる代わりに「あなたの話を聞かせてください」と言った。「……例えば?」「あなたの夢とか」




私は今、暑さを失った夏の中にいる。

失われた夏
作者:紺堂カヤ│小説
お題:霧、真っ白い、南
去年まであんなに暑いとぼやいていたというのに、夏の熱だけが失われてしまった。暑くはないが、汗はかく。原因がわからない、と話せば、私の甥である和紗が飄々と言う……五感をくらませ、煙に巻き、季節の巡りを見失わせるものは。




それは一瞬のこと。ぱちん、と薄い霧の膜が、弾ける音がした。

恋影レーヴ
作者:七夕ねむり│小説
お題:永遠、日傘
夏休みの部活終わり。「シンロ」とやらを気にし始める時期、胸のざわつきを覚えながら歩いていると、突然、頭上から水が降ってきた。「ごめん!」ホースを手に近づいてきたのは、ほとんど話したことのないクラスメイトだった。




(朝が来れば朝顔の花が咲き誇るように、いつか私も新しい恋をすることができるのでしょうか)

たまゆらの季節を憶う
作者:詩月すずの│小説
お題:朝顔、たまゆら
朝顔は嫌い。あの夏の記憶を、あの人のことを、今でも鮮やかに思い出してしまうから。──時は平安。顔も知らない男との縁談をひかえる姫君は、庭の朝顔を見て苦い記憶を思い出す。胸の奥底で朝顔がするりとひらく、しとやかな恋物語。





76-80

──灰色の海の上に、俺はいた。

魂の揺りかご
作者:三上優記│小説
お題:波、少女、遊覧船
起き上がれば、俺は見知らぬ船に乗っていた。戸惑う俺を迎えた女性は、黒いパンツスーツ姿で、手には大鎌を構えていた。死神。脳裏を過った言葉にふさわしく彼女は言う。「うん。君は死んだ。それは確かだよ」波の音がさざめく、契約にまつわる遣り取り。





絶景甘味タイム
作者:ミズキカオル│イラスト
お題:雷、アイスクリーム
色とりどりの雷を落とす雲の上には、優雅な時を過ごす彼女がいる。つられて口角の上がるような、ポップで甘い世界へようこそ。




ずっと『海』を、この一面の砂に代わる水を、探している。そんな気持ちに取り憑かれている。

うみべのおうち
作者:笹波ことみ│小説
お題:砂、東、観葉植物
わたしは亀のテュルトの上に建つ家に住んでいた。見渡す限り一面の砂の海、東の空には月クラゲが浮かんでいて、遠くには砂漠ジラ(サバクジラ)が悠々と泳いでいるのが見える。星屑の散らされた、やさしく胸に迫る物語。




みんな、成りたかった自分に、成れないことに、どうやって、折り合いをつけているのだろう。

遺り香
作者:HACHI│小説
お題:海猫、揚羽蝶、愛しい
田舎の老舗百貨店で働きはじめた「わたし」は、毎日笑顔を貼り付けて接客していた。半休が出勤に変わった日、ひとりのお客様が話しかけてきて……。遣る瀬なさを吐き出し、自分の心を確かめる。何度も読点で区切りながら。




そうして片脚を軸にして、さざ波に合わせるように動いていると──それが自然に、舞になった。

海月の剣舞
作者:鳥ヰヤキ│小説
お題:クラゲ、さざ波、剣
レーヤは巫女の一族だ。巫女は年に一度、水辺の舞台で剣舞を奉納し、漁場の安全と暮らしの幸福とを、海の精霊様に祈祷する。今年はレーヤが巫女になる年。だけど、自信がない。剣舞はレーヤにとって憂鬱なもので……。





81-85

宝石をこぼしたようにきらきらと煌めく水面は目映く、美しい。

サンセット・カフェを訪ねて
作者:彪峰イツカ│小説
お題:夕焼け、レモン、揺れる
岬に佇むその店には「サンセット・カフェ」という看板が掲げられていた。土砂降りのなか店へ飛び込んだ私は、コーヒーレモネードを注文する。一見客はまず頼まないオーダーに驚く店主に、私は家族にそれが好きな人がいるのだと語り始め……。




大人に言わせてみれば、きっと、思春期の青いなにかしらみたいな感じで処理されてしまうんだろう。

拝啓、モラトリアム様
作者:あじさい│小説
お題:夜光虫、朝凪、奥深い
ここは、紙飛行機を飛ばすには不向きな場所だ。海を臨む旅館に来ている俺には、何十枚もコピーされた進路調査票が渡されていた。それを埋められずに紙飛行機を作っていると、同じ宿のお姉さんに声をかけられる。息をしようと、自分の内側へ潜っていくお話。




しかし、その目がじっと私を見て。青い色が海のようにきれいだ。

貝の道
作者:トウフ│小説
お題:常しえ、貝殻
今日は神様が山から下りてくる日らしい。村に引っ越してきたばかりで友達のいない「私」は言われるがまま神社に向かう。そこで出会ったやつれた「カミ」は、青い目をしていた……少女と「カミ」の交流、村の因習を巡るホラー。





逝く夏、来ぬ夏。
作者:月島あやの│漫画
お題:滝、アイスクリーム、すがすがしい
高校生活最後の夏休み、その最終日。受験勉強に飽きた二人はアイスを食べに出る。都会に出たきり帰って来ない兄を思う妹とその友人、波音が響く中での、二人の約束。




ただそれもどうでもいい、とにかくいまが楽しく、慧汰は一枚の刃のようになって風を切り裂く。

on your marks
作者:草群鶏│小説
お題:燦々、雲の峰、かつてない
インターハイ、陸上競技の県予選。最後の夏、多くの高校生にとっての大舞台に、澄夏と慧汰は出場していた。『オンユアマークス』合図がする。青春すべてをかけて、スタート位置に着く。





86-90

「忘れんとって。できたら覚えとって。それで……」

風鈴のお稲荷さま。
作者:蓮魔│小説
お題:金継ぎ、夜店、宝石
真新しいサンダルに浴衣。だけど結花の隣にはだれもいない。祭りに行く予定だった友達と喧嘩をしてしまったのだ。結花はお面の子が足を滑らせたのを助けたことをきっかけに、その子と屋台を回ることになり……読者にはたしかに聞こえる、風鈴の音のやさしいお話。




朧げな輪郭が記憶の縁に浮かんでくる。名前も姿も思い出せない、少年、あるいは少女。

Aちゃんの団扇
作者:雲鳴遊乃実│小説
お題:夏至、扇、切ない
解体工事が始まった家に見覚えがある気がした。そのこと自体が不思議だった。「それはAちゃんのお家でしょう」母さんはそう言うが、三歳のことなんて覚えていない。幼いころの思い出を手繰り、整理する。静かにこころを整えるような物語。





封印
作者:るね│イラスト
お題:夜光虫、紙
満月と夜光虫が眩い、明かりも要らない夜。海辺で出会った、その眼差しの語るものとは。重ねられた青の奥深さを肌で感じてください。




ボクが望むのはそれだけだ。片割れの存在が今でもボクの中の大半を占める。

Mirage
作者:紅藤あらん│小説
お題:羽
昔々、子供好きの神様がおりました。神様はある日、背に羽をもつ双子を見つけます。神様は自分の子らだと彼らを連れ去り、二人を分けてしまいました――時が止まった中でボクは考える。ボクらは何故別たれたのか、一緒にいることはできなかったのか。




建物のかたちを際立てるように、強弱をつけて夕立が降り注ぐ。

夕立
作者:楠 海│小説
お題:タイル、夕立
地下鉄から地上に出た途端、遠雷が響いた。普段なら濡れて帰るのだが、今日はそういう訳にもいかない。――興味があるなら貸すよ。そう言ってはにかむように笑った先輩が、貸してくれたばかりの古い詩集が入っているのだから。





91-95

しなくてもよい、なんでもない会話。他愛もない世間話。すぐに終わってしまう言葉。けれどそこに気まずさはない。

ふたりで、幸福な夏を。
作者:丹刀│小説
お題:うたかた、スイカ、眠たい
マキさんが隣にいない、と気がついたのは、太陽が空の真上に差しかかる頃だった。どこかへ出かけたのだろうか。心細く感じながら身体を起こすと、階下から物音がして……。独りでないことを知ってしまった二人に流れる、穏やかな時間の話。




土を踏んだのは久し振りで、そこで一生分の蝉の鳴き声を聞いたような気がした。

私たちについて
作者:カカロットおじさん│小説
お題:蝉時雨、陽炎
僕と佐々木は、学生時代の友人の実家へ向かっていた。男二人を乗せたホンダの2ドアは淡々と行程を消化していく。車内に友人がよく歌っていた曲が流れ、僕は自然と学生時代のことを思い出していた。




日の光に当てられて、その飲み物はなんだか輝いて見えた。

檸檬に翼はない
作者:夜崎梨人│小説
お題:天、レモネード
人間の願いを叶える事で雛鳥は天使になる。雛鳥のわたしがこれまで願いを叶えた数は片手で足りる程度で、まだまだ道のりは長かった。だから、いつまでも一カ所に留まっている訳にはいかない。こんな、人間が少ない島のカフェを手伝っている場合じゃないのに。





木陰で休憩
作者:櫻井更紗│イラスト
お題:帽子、アイスクリーム
ここちよい木漏れ日が差し込む木陰でひと息。思わず目を輝かせてしまうような、爽やかに彩られた空気で癒やされてください。




俺の人生の転機はいつも夏に来る気がする。

夏を紡ぐ
作者:蒼木遥か│小説
お題:アルコール、星、電話
洋輔と夏生は家族ぐるみで付き合いのある幼なじみだ。高校三年の夏、息抜きもかねて、ということで県内のキャンプ場に行くことになった。二人は久しぶりにゆっくりと話をして、「来年もおれらでキャンプ行こうぜ」と約束を交わすが……。





96-97

赤く、青く、黄色く、白く、色んな色で表現されていく季節達のポスターや映画なんか、私にとって空気の死骸の展覧会だった。

くらげの煙
作者:薄明一座│小説
お題:かき氷、泡
私にとって、季節は重く薄い透明な膜の様なものだった。大学生になり家を出ても、その感覚は変わらない。課題に行き詰まっていたある夜、私はそいつに出会った。「……何だ、アンタ」「何だ? 何に見えるね?」「……くらげ?」「じゃあ、それだ」





まだ夏を見つめてる
作者:有郷多嘉良│イラスト
お題:常しえ、しがらみ、愛しい
夏が僕をはなさない。僕は夏を忘れたい/どこまでも青い空と海、そして彼女の瞳。真っ直ぐな視線と透明感で、心を青く染め抜かれるような。






全97作品、さまざまな夏が集まりました。
あなたの中に眠る夏には出会えましたか?
どうか楽しんでいただけますように。


作品をご覧になったら、ラジオ体操カードのようにチェックしてみるのはいかがでしょうか。
読了カードを作成しましたので、データで/印刷して、ぜひお使いください。
(50を超えたら、タグ #web夏企画 付きツイートで教えてもらえるといっそう嬉しいです)